ロシアに来てから、いまだにВы(遠い関係、敬意のこもった”あなた”)とТы(君、お前、親しい間柄での”あなた”)の正しい使用方法が分からずどうしてよいものか悩んでいます。
市場にでかけたとき、Что ты хочешь?(お真似は何が欲しいんだ?)と乱暴に言われると、きっと下に見られているのだな、と感じます。一方で、Здравтвуйте, что вы хотите?(こんにちは、何を入用ですか?)と丁寧に尋ねられると、あっこの人の教養レベルは高いなぁ、と思ったり。
現在の職場に来て本当に間もない頃、会社のドライバーと会話をしていて「これからあなたのことをТыで読んでもいいですか?」と尋ねた瞬間、これまで勢いよく楽しく会話していたドライバーの顔が一気に硬直して少しの間固まっていたことを思い出します。あれは完全に失敗してしまった。親しい間柄だから、という気持ちからの発言だったのだが、どうもそうは取られなかったのかもしれない。
ロシア人の友人にこのВыとТыの使い分けが自分にとって難しいことを伝えると、彼女も「私もそれは分かる。私もお年寄りの方を呼ぶときに親しいのでТыを使っても良いのか、それでも相手を敬うためにВыを使うべきか、悩むことがある」と言っていました。ロシア人でさえもこうなのだから外国人の自分にとってはもっと難しいに決まっている。
さて、今日、ジムのサウナに入っていたら、よくある会話で「(熱した石に)水をかけてもいいか?」と一人が尋ねると、もう一人が「おぉ、いいね、賛成だ(Да, я за.)А ты?(ところで、お前は?)」とこちらに尋ねてきました。ときに、人によってはその質問がВы?になることもあるので人によって違うのですね。
会社で部下に対してТыを使用して会話したときのこと。頻繁にコミュニケーションを取っているスタッフで決して遠い間柄ではないと思うのですが、「職場ではВыではなしてください」と言われてしまいました。相手にはそんな近い関係とは思われていなかったのだろうか…。あるいは上司と部下の線引きを明確にしておく意図があったのかもしれません。かつていた経理責任者(Главный бухгалтер、英語Chief Accountant)は年齢も60歳に近く他のスタッフと年齢も離れていたが皆とТыでコミュニケーションを取っていました。一方、今の経理責任者は年齢も部下からそこまで離れていないもののお互いにВыで会話している様子です。大変皆仲良くやっているけれど、Выで呼び合うところに一定の距離とお互いに対する敬意が感じられます。
また、業務上の取引先の方にメールを書くときには、文中であってもвыではなく、ВыとВを大文字にして書くことがよい、とロシア人スタッフから習いました。相手への敬意を表すことになるようです。また、通常はТыで呼んでいたのに、Выに変えると二人の間に何かあったのでは、ということもあるようです。こんなちょっとした短い言葉、ВыとТыであっても大変深い意味がある。こんな部分からもロシア語の奥深さを学んでいます。 ロシア語の教科書では紋切型のВыとТыの使用方法が書かれているように感じられるのですが、実際に使用する場面では、相手に応じてその人のキャラクターや雰囲気を感じる会話能力、対人関係の感覚能力をもって相応しい選択肢を掴んでゆく力が大切と考えています。教科書で学んだこととは違うことが世の中多く、それを実践中です。