私が、長年ロシアに勤務する中での「人材育成」に関して悪戦苦闘、試行錯誤から得た結論。それは、「日々の自分の発言とそれに矛盾しない行動がスタッフ自身の育成に繋がる。」これしかないんだろうな、と今の時点では結論付けています。
きっとこれが真実であるからこそ、会社はマネジメント以上の能力以上には成長しない、という会社の成長について語る際に何度と無く耳にするこの表現は、まさに的確な表現だなぁ、と思うばかりです。
これから記載することは、「えっ、こんなレベルなんですか?」と、 長年日本で仕事をしている人から 言われておかしくないのかもしれませんが、実際に私が日々直面してきたことはこのような状況です。そして、裏を返すと、日本の大企業に詰まっている、世代をわたって引き継がれてきている日常業務のノウハウの標準レベルの高さ、浸透度合いの高さについて改めて素晴らしい・・・ただただそう感じるのです。
たとえば、大量の書類の束を見るも無残なくらいに引き伸ばされた痛いげなゼムクリップ(Paperclip)を見て、「こういった量がある時にはこれに見合ったターンクリップ(Binder clip, Foldback clip)を使いなさい」とか。サプライヤーへの支払い承認申請書を持参して口頭で説明するスタッフに対して、「要点をまず申請用紙に記入してくるように。その口頭説明を後で誰が覚えている?もし私たちが退職したあと、この二人の会話がどこにも残っていなかったら後の人たちが申請履歴を見ても分からないでしょう。」とか。Excelファイルを作成する際には、(全てではないですが)きちんと印刷プレビューにて、自分の作成したファイルが正しい印刷用範囲内に収まっているかを確認すること。その上で他者に送信をするように。」など。そういった日常的に出会う小さなことです。
あるいは、時間管理。遅刻しないこと、仕事時間に関する生産性を高めるようにスタッフに日ごろから訴えているのであれば、私たちが出社時間を守るのは当たり前ですが、それ以外には予定の会議に時間通りに参加することを意識すること(残念ながら数分の遅刻が時々やむを得ず起こりえるのですが・・・)、どうしても時間をずらす必要が出る時には、次に待っているスタッフにショートメールを伝えて会議の時間変更をお願いすること、とか。私の時間だけではなく、次に控えている他のスタッフの時間をむやみに浪費してしまうことがないように意識が必要だと思っています。
Excelについて言えば 、Excelに未熟なスタッフでも最低限取り扱えるであろう必要最低限名関数を利用したファイルを作成し、それを実務で使うように共有してゆく。そうすると、面白いことにロシア人スタッフなりにそのファイルを自分たちに合うように改良して、実務の中でそれが発展してゆきます。そしてその関数を覚えてくれるスタッフがでてきます。(しかしながら、そのファイルが滅茶苦茶なことになっていないか、時々チェックを入れることが重要です。さもなければ、勝手にファイルを一層難しくしてしまっているケースもあり・・・。なぜ仕事を簡単にするべくこのファイルを共有したのに、こうも勝手に仕事を難しくしているんだ・・・?と。これも悩みの一つです)
結局、このように自分自身の一つ一つの行動がロシア人スタッフの間に伝わってゆき、例えば最初の例でいえば「承認を得るためには事前にXXをやっておかなければダメなんだ」と、スタッフが形から入ることでそれが常識となり、それを自然に行えるようになってゆく。人によってその習得度は大きく異なるのですが、結局のところそれがスタッフのビジネススキル習得のための 最短距離の 方法なんだと。この結論に至っています。
まだまだその他にも改善点は残っています。Emailでのコミュニケーションがチャット状態になっていて、多くの従業員がCCに入っており、関係ない人ばかりなのに全員にメールを送り続ける現象 ― 「もうやめてくれ!」と全員に伝えてもやめない人間がおり、それがきっかけでまた続く ― そんな直らない点もあるのですが・・・。
そして、このような基礎的な事柄を自然とスタッフが出来るようになったときに、次のステップとして「なぜ?」という問いかけです。これができない人が多いことに驚きます。
- 言われたことはできるけれども、自分でその理由を考えようとしない。
- 言われたからやる。おかしいと思っても私は気にしない。
- 日本人のマネジメントが言っていることで文句を言わずに聞いておいたほうが楽だから。
- 何かこのやり方に間違いがあっても責任は日本人マネジメントだから、私には関係ない
そんな要素も皆無とは言えないのでしょうが、よいチーム関係を築いている間柄で、お互いに発言をし合える環境にあることを前提とするならば、「なぜ、これをやらなければならないのか?もっと他によい方法があるのではないか?」日本人マネジメントから多くの知識、経験をスタッフに共有することが多いとしても完璧ではありません。スタッフのほうがもっとよいアイディアを持っていることが実際にあります。その問いかけをどれだけ各人の中に生むことができるか。 さらに試行錯誤は続いています・・・。