モスクワならではの近い距離で他社の様々な経歴を持つ方たちと付き合える機会は駐在生活の中のメリットの一つです。他社の駐在員や現地採用で勤務している日本人との交流を通して得るものがたくさんありました。これはモスクワに限ったことではないのだろうと想像ができます。会社の業態は様々で顧客は多岐にわたるとはいっても、管理部門は同じ悩みを抱えるケースが多くあります。もしかすると、営業スタッフは各社固有の問題があり、他の会社と相談しても同じ土台で会話することが難しい場合もあるのかもしれませんが管理部門は違います。与信管理をどうするか、人材の採用はどうするか、どうしようもないスタッフに去ってもらうためにはどうすればよいか、人事制度はどうしているか、近々導入されることになった法律への対応方法はどうするかなどなど、会社の管理部門の課題はどの会社も共通して抱えている悩みでもあります。
日本に勤務していれば、勤めている会社事務所が東京に集中していないこともあれば、社内の付き合いが中心となることも多いはずで色々と制約が多く、他社の方々と広く付き合う場を得るには自らの努力が求められます。その一方で、モスクワでは多くの企業がモスクワ中心部に事務所を構えており、社内の立場上自らの仕事をコントロールできる権限も広まり、集まりあうことも容易になります。インドからそのまま異動して着任した方、中国、アジア地域その他の国々での駐在を経験してきた方々、ロシアに定住して10年以上もロシアビジネスを見ている方の話、ソ連時代から仕事をしてきてソ連、ロシアと国家の変遷を見てきた方の話などなど。ベテランの方たちが多い中で交流を通して自分自身の仕事の方法、考え方のずれを是正するよい機会ともなりました。なお、全く違う思考回路と出会い、自分自身の視野を広げ、もしかすると完全に考え方や価値観を変えるにはロシア人との交流がピッタリです。それは時に日本社会への適用能力が下がってしまう危険もはらんでいますが…。
会計事務所や銀行主催の管理系のテーマであるセミナーに出席すれば、概ね同じメンバーが揃う。そこに出ると、あぁこの会社の管理担当者もついに帰任して後任の方と交代する時期なのか、それにしても自分はここにいる顔ぶれの中でも随分と長くなったものだなぁと客観的に振り返ってみたり。中には、ほとんどそういった場に出てこない人もいるけれど、それは、毎年のように同じような内容でロシア駐在初心者向けの内容である場合もあり、出席しても無駄…と思う人がいても仕方がないのかもしれません。日本を代表する日系企業という一枚岩で考えるならば、自分の知識を新しくきた人に分かち合い、同じ問題で足踏みしてしまわないように助け合うことも大切な要素だと思っています。日本にいる時にはそういった意識はなかったけれど、世の中にはたった一人の行動でもって「日本とは」「日本人とは」というレッテルをいとも簡単に貼ってしまうしまう人間が存在する中、「日系企業はやっぱりすごい」そう思わせられるように、各企業が一人で苦しみ、闘うよりも、できる部分では皆で協力して毎日の仕事を少しでも楽しくできるほうがずっとよいではないだろうか。そんな風に思います。日本で仕事をしていても「自分が苦しんだこの経験を他の人にも理解してもらいたい。」そんなネガティブ思考に出会うことがありますが、自分が苦しんだこの経験を他の人が味わうことがないように知見を共有し、伝えてゆくことがポジティブな、あるべき姿であると信じています。
話が変わりますが、休暇でイギリスのロンドンに出かけてミュージカルを鑑賞したときのこと。私の購入したチケットの場所は左右の通路からちょうど真ん中くらいで鑑賞するには特等席。が、会場に入るのが遅く、既に席についている方々に申し訳なくも足元の狭い間隔を通してもらいながら自分の席にやっとたどり着く。ぱっと見たところ隣には中年の女性日本人二人組。「おっ、日本人だ」と思い、挨拶しようと思って構えたところ、「せっかくここまできて周りが日本人だらけ。ほんといやになっちゃうよね」と二人で会話している声が。こちらを意識しているとは信じたくないけれども、確かに周りには日本人らしき人が多かった。それでも、別に海外で同じ国の人と出会っても悪いことではないのではないかと思うですが、そこまで嫌悪する理由って一体何なのでしょう。情報交換できることもあるだろうし、大げさではあるけれども、同じ日本からやってきて異国の地で出会ったのだから、そこまで悪いことを言わないでもらいたい…少しばかり悲しくなりました。