「日本人と仕事をするのは疲れる!」
これがずばりロシア人スタッフの本音ではないでしょうか。毎日ロシア人スタッフと働いていて、彼らの反応を見ていてそんな気がします。
我々日本人にとっては当たり前のような資料作りも「分かりました。」・・・その表情をみると、“まったく面倒くさいこと要求してくるな。分かったよ、上司だし・・・聞いておくか”なんて様子がちらっと見えることも。ロシア語には、”Ладно”という、何度となくロシア人スタッフから聞くスバラシイ言葉があります。 あまり賛成ではないんだけど、まあ分かりました、という消極的な賛成の言葉です。(Дадно = Если кто-то говорит ладно (уж), значит, он сначала на что-то не соглашался, а затем решил (или был вынужден) согласиться. )
エクセル資料は、作成後は必ず印刷範囲に収まっていることを確認すること。不要なシートは除くこと。罫線のデザインがばらばらなのはダメ。フォント・文字の大きさが違うから直して。分かった、問題は分かったので、もっとこの問題を含めて全体像が分かるようなロジカルに説明した説明資料を持ってきて、など。「このような小さなことにどれだけ注意を払えるかで、その人の仕事に対する姿勢が分かる。だから小さなことに気を配ることが大切なんだ」との信念を曲げずにロシア人スタッフと余計にこじれます。これは大筋では真実であると私は考えていますが、実は正しくもあり正しくないのだろうな、と今では思ってます。
ロシアに長く住み、ロシア人スタッフと勤務していて、ロシアから学ぶことが多くあります。日本とロシアのどちらが正しい、というわけではありません。ロシアにあって日本にないもの、それが今の日本で必要とされているものではなかろうか、と。ロシアも然り。ロシア人、お願いだからもっと日本のよさを学んでくれ!と毎日一度は心の中で叫ぶのです。「日本はすばらしい。トイレがきれいだ、ウォッシュレットが最高だ」なんてことはどうでもよいので、仕事に対する取り組み方も学んでくれ・・・と。
細かいことに注意を払うからこそ、日本の美しい工業製品、芸術が生まれる。細かいことに注意を払うからこそ一つ一つの行動が慎重になり、会社の稟議にも時間を要する。でも、その行動の結果は想定内に収まる可能性が高くなる。そして、それが日本全国の各レベルで機能しているので、結果として“安定した”国家が生まれる。そんな”安定”にロシア人は魅力を感じる。そんな“安定した”日系企業で働きたい、というロシア人。 通貨暴落を何度か経験している国であり、”安定”という言葉が存在しない(?)ロシア。面談に来るロシア人の中には、絶対にロシア企業で金mしたくない、と言い張る 人も少なくありません。
一方、ロシアでは細かいことよりももっと大きなことに目を向ける。(宇宙に船を飛ばせる国であり、そのためには非常に精密さが求められるはずなので、ロシア人は細かいことがだめだ、という偏見の目で判断することは控えます)。細かいことは気にしない。問題が発生したときに何とかしましょう、という意識を感じます。悪く言えば、すこぶる雑です。他方、相手のことを考えず、自分のことを優先に考える傾向、はっきりと自己主張できる強さ、感情を自然に表せること。これらは、決して良いとは言えませんが、結果がどうであれ物事を前に動かすためにはプラスです。
今後はますます、日本人が自然と培ってきた特質が大切になると感じるようになりました。それは、「他人がどう考えているか、他人にどうすれば喜んでもらえるのだろうか。」という他者のことを考えられることです。相手とのコミュニケーションの中で、相手の心の中を読み取る能力、それに合わせて自分自身の対応を変えてゆける力、相手と自分の相違をどの着地点で決着させるかを見極める。これは本当に大切です。これはマニュアルとして記載して後任者に渡しても人に引き継げる能力ではなく、成功・失敗の経験を踏まえて自らに培ってゆくしかないのだろうと。
他人のことを配慮できる能力 ― 日本人が誇るべき特質の一つ ― は違う見方をすれば、他人からどうみられるか気にして行動できなくなる、という消極的な捉え方もできます。私自身、この考えに強く縛られていました。というか、それすらも感じずにずっと長く日本で生きてきました。長年働いてきました。しかし、この考えが自らを勝手に縛っていることに気が付いたのは、ロシアで働いている中でのことです。
人の目が行き届かない部分でも妥協せずに細かい点を意識する。だからこそ今の日本がある。それにロシア人も羨望の目を向ける。しかし、実際に自らやれと言われるとそれは別。「私は見てるだけで十分!私はなんだかんだ言ってもロシア式の雑さが好きだ!」というのも本音なのかもしれません。
日本人にしてもロシア人にしても、自らの強み・弱みを理解した上で他者の良さを素直に受け入れて自らを変えてゆける、成長してゆける人。そんな人材がもっともっと増えてゆくことを会社の従業員に期待するばかりです。