以前に記述した「有給休暇の計算」で取り上げた係数”29,3”という日数の意味は一体何でしょうか、調べてみるとこんな経緯がありました。
ソビエト時代から1992年に至るまで、年間365日から祝日と日曜日を除いて(ソビエト時代は週の仕事日が6日間で日曜日が休日)12か月で割った計算結果、25,4日を使用していました。1992年から2000年までは毎年ロシア労働省が次の年の計算に利用される係数を発表。2001年以降は労働法112条で祝日の数、労働法139条で月の平均日数が以下のように決められてきました。2014年に定められた29,3日は今でも有効で、この基準に基づいて有給休暇の計算の際に29,3を使用します。
Год | 年間カレンダー日数 / Кол-во дней в году | 祝日の日数 / Кол-во праздничных дней (ст. 112) | ひと月当たりの平均カレンダー日数 / Среднемесячное число календарных дней (ст. 139) |
2001 | 365 | 11 | 29,6 |
2004 | 366 | 12 | 26,6 |
2006 | 365 | 12 | 29,4 |
2012 | 366 | 14 | 29,4 |
2014 | 365 | 14 | 29,3 |
例えば、過去12か月の収入が月給50,000RUBのみであった場合。過去12か月間、全勤務日で仕事に従事したのであれば29,3日を使用しますが、1か月(31日間)だけ休暇を5日間取得した月があったとします。有給休暇の計算に利用されるその月の日数は以下です。
29,3 / 31日 * (31日―5日間)= 24,57日
その結果、導き出される平均給与は(50,000RUB*12か月)/ (29,3日*11か月分+24,57日)= 1,729.75RUB/日
仮にこの時点で未消化有給休暇の日数が20日間あるとすれば、1,729.75RUB*20日間=34,595RUBの引当金が計上されます。(もしこの従業員がこの時点で退職する場合、この金額を会社は退職日に支払う義務がある金額)
もし計算対象の12か月間の間に昇給があったとすると、その昇給率を昇給前の給与にも掛け合わせて収入額を増加させる。それから12か月分の総合日数で割って平均日給を計算する、という手間も必要のようです。システム無くしてはとても追いつかない複雑な計算ロジックに参ってしまいそうになります。
そもそも、なぜロシアの有給休暇(出張時の給与計算も同様)の計算方法は過去12か月分の平均給与を基準に計算されるのか、その発祥はいつか?こういった点に疑問が湧いてきます。一般的に、就業経験が長くなるに伴って収入も上がってゆきます。毎年賞与も入るとさらに収入は増えます。毎年付与される28日間の有給休暇を消化しなければ、未消化分は退職するまで蓄積されますので、ある意味貯蓄のような意味合いを持っています。平均給与は毎月変動するので各従業員の未使用休暇日数が積み重なるにつれて引当金の計上額も増えてゆく。毎月人件費に不測の変動が生じる要因です。
きっと各国の計算式にはその国の歴史や考え方が反映されているはず。ソビエト時代からの計算の歴史を辿ってゆくと面白いに違いありません。こんな興味深い文献を見つけました。
НЕКОТОРЫЕ ВОПРОСЫ ИСЧИСЛЕНИЯ СРЕДНЕГО ЗАРАБОТКА
SOME ASPECTS OF THE ALTERATIONS IN THE LAW OF AVERAGE WAGE CALCULATION
https://cyberleninka.ru/article/n/nekotorye-voprosy-ischisleniya-srednego-zarabotka
私の個人的な意見として、ロシアの労働法はスピードの速い現代ビジネスの展開やフレキシブルな現代社会の働き方にそぐわないものとなっています。例えば毎年12月中旬までに翌年1年間の休暇スケジュールを決めて、その計画に沿って従業員は休暇取得が要求される、というルールであったり、休暇開始日の3日前までに会社は休暇分の給与を従業員口座に振り込まなければならないというルール。完全にソビエト時代の計画経済の名残ではないでしょうか?このようなルール違反の罰則規定があり、それによって余計な負担が管理部門にのしかかり、そのルールを理解しないスタッフから不平不満があがり…一体誰が得をするのでしょうか、このようなルールの見直しがなされることを願っています。