ロシアに住んでいると、仕事も生活も日本のようにはいかずストレスが溜まることが多いのではないでしょうか。一方の日本では、異なる種類のストレスがあるために総合的にみると同じなのかもしれませんが…。
日本人はアジア人であり、黄色人種なんだ、ということをロシアで実感します。ファッション雑誌などの影響を受けて育った我々は、色白かそうではないか、眼が大きいか小さいか、二重か一重か、背が高いか低いか、顔が小さいか小さくないか…そんなことに自然と意識を向けてしまう傾向があるように感じていますが、自分の生まれた民族性を否定してしまう考え方を同じ日本人から聞くと首をかしげてしまいます。
ロシアでは、私たちは中央アジア人と間違われる可能性があり、その中央アジア人は、一般的にロシア人からよく思われていない傾向があるために友人からも時に「嫌なことにあってない?大丈夫?」と心配されます。実際にあるか、というと、露骨に嫌なことはないものの、場面場面を振り返ってみると小さなレベルでは気にならない程度ですが、それなりに出会っているのかもしれません。
最近思うのは、”自分が外国人で、アジア人だからこんなことをされるんだ、なにくそ。”という考えは誤りだな、ということ。モスクワに住むのはほとんどがロシア人と周辺国の人々。その中にわずかな比率で私たち日本人がいる。ここに自分がいてもいなくても日常的に発生する嫌なことが起こり、たまたまその場面に出くわした時に「差別だ!」と思うのか、「こんなことが起こるんだな、それにぶつかってしまっただけ、まぁ、仕方ないや」と思えるか。
今日、食料品店のレジの列に並んでました。2つのレジが動いています。4,5人が列に並んでいます。と、そこへやってきた店員が3つ目のレジを開き、「どうぞ」と列に向かって声をかけます。すると、その3つ目のレジのすぐ前に立っていた女性が、「いいですか?」と言って、籠を置き会計が始まりました。その女性の前に並んでいたおばあちゃんはすごい怪訝な顔でその様子を見ています。本来であればそのおばあちゃんが先にレジで会計を開始できるはずなのに…。レジの店員も本来なら「いや、列の先頭に並んでいた方からお願いします」と言えばよいものを。こんなちょっとした嫌なことは日常茶飯事です。差別どころか、中央アジア人ではないだろうと服装などから察してか、逆に優先してくれる方も時として出会います。嫌なことだけではなく、良い出来事も記憶に留めておきたいものです。
自転車で通勤していたとある朝。前にいた交通警察官に待ったをかけられて自転車をストップ、罰金を払うことに。
「ドキュメント(=パスポートを見せなさい)。」
「(今走っているところは)車道なので自転車で走ってはだめだ。歩道を走らないといかん。」
「いや、歩道は歩行者のためだと思って、あえて車道を走っているんだ。」
「いや、あかん。Zberbank(ロシアの最大銀行)で罰金250RUBを払ってもらうから。今書類を準備するから待っていなさい。」
「今日は勘弁してくださいよ…知らなかったんです。次からしませんから!」
「いや、だめだ。」
「250RUB。ディスカウント付きの250RUBですよね?」
「そうだ、お前よく知っているな。 ディスカウント付きの250RUB だ。」
「以前にも罰金をくらったことがあるんです…。」
「20日以内に支払えば250RUB、それを超えてから払ったら500RUBだ。これでも、君によくしてやってるんだ、本来自転車の場合の罰金は800RUB!それのディスカウントでも400RUBかかるのに、そこを250RUBにしてあげてるんだからありがたく思いなさい。」
「…。え~ほんまですか~…まあ分かりましたよ、ありがとうございます。」
罰金でディスカウント付。この表現が思わず笑ってしまいます。以前にも横断歩道ではない場所の車道を横断したところ、警察に止められて罰金を支払ったことがありました。その時にも”ディスカウント付き”と言われたのを思い出しました。
朝の忙しい時間に5分ほど時間を取られてしまい、かつ罰金ということでイライラしてしまうものですが、こういう時に取り乱しても何もよいことはなく。笑顔で笑いながら会話を楽しめたのは、我ながら成長したなあ…と。
「ところで、お前はどこで働いているんだ?ん、日系企業?もし秘密ではなければ給料はいくらぐらいだ?教えてくれ。」
「いや~モスクワの平均くらいですよ。」なんて言って曖昧に答えました。いやあ、一般的にこの場で給料はいくらだ?なんて聞かないでしょう…。
「どうも~、さようなら。」「お~またな~」という雰囲気で、それでもこちらはそのまましばらく車道を走ってオフィスに向かいました。
ロシアでは苦しいこともユーモアで笑い飛ばす。そんな心構えでいることはかなり重要です。笑いのネタになって笑いを提供してあげる。それができるようになれば相当無敵のロシア駐在員です。そんな無敵となるべく心の沸点と闘う毎日。