会社では自由闊達な議論が行われ、どんなポジションにも関係なく自由な意見を言える、これが目指すべき会社の姿であることは一般的に言われています。しかし、私自身が実際に会社でマネジメントする中でそれが必ずしもうまく機能せず、良かれと思って行ったことが自分自身を苦しめることに繋がることも経験しています。
上の立場にいる私からすれば、部下がものを言えども、最終的には私自身の決定に素直に決定してくれることを望みますが、時にスタッフが一線を越えることがでてきます。それは日ごろから自由を尊重し、どんな点でも言ってね、むしろ言わないとダメだ、というスタンスでいるがゆえに、スタッフも(彼彼女からすれば)私の決定が間違っているのだ、と主張してくるわけです。最終的な決定に従ってもらうには、日ごろからの信頼関係の問題も出てくるため、どれだけ日常的に部下とのよい関係を築けているのかが問われる場面となっています。とは言っても、関係づくりもどれだけ強固なものが築けるのか、それまた難しい。どんなに考えて行動していても、お互いの一言、たった一つのメールが原因だったり、ただ朝から機嫌が悪いことから言葉はなくとも、自然と伝わってしまう態度、行動から険悪な雰囲気となってしまう、徐々に話す機会もなくなり、仕舞いには挨拶もせずに目をそらしてしまう…。そんなことが小さな会社の中で起こっているのを目にしてきました。
次元は違えども、国の政府も同様で、政府、民間企業の大小の規模関わらず、あらゆるところで同じことが起こっているのであろうと想像しています。おそらく、政府にしても会社の首脳陣にしても、国民や一般従業員が意思を持って政府、マネジメントの判断に対して公に声を上げる事を内心嫌がっているのであろう、と。国で言えば、国民に選ばれた人たちが、選んでくれた人たちの声を政府に届けるどころか、彼らの意思とは違う行動を取ることがある、そんなことがあるに違いありません。上の立場になると、一般の人が持っていない情報や人脈ができ、それによって将来を見据えた行動を取るべきであると認識する。その一方で一般大衆は自分の身の回りのこと、毎日の自分の生活環境内で起こる出来事を重要視する。将来の国民全体の利益や他の州や自治国で起こってることは関係ないわけです。そのため、国を治める側になると、将来を見据えた上で、自分を選んでくれた人たちにも一部犠牲を強いる必要がある。それを分かってもらうのがどれだけ大変なことか・・・。ロシアでの年金制度の改革で各地で大騒ぎとなったこともまだ記憶に新しい事です。
こういったことが自分の周りでも、ここロシアでの小さな会社でも起こっています。部下との関係の距離をどのように取るべきか、ここは人を管理する立場になって感じる非常に苦しい部分でもあります。自由を尊重し率先して薦めてゆく一方で、どこかに制限をかける必要性がある。その狭間で悩み、苦しむことがあります。何か素晴らしい解決策があるとは言えず、いつも飾らずに素の自分で接しています。それが自然ですし、自分も苦しくならずにいられます。そのうえで、話を聞き、意見に感謝しふさわしいところは相手の意見を取り入れたうえで最終的には自分の決定に従うように指示をする。おそらく当たり前のことなのでしょうが、なかなかこの当たり前のことをできるようになるには多くの時間と経験を要してきました。
情報の透明化について一言
情報の透明化がよい、という論調が勝っているように感じられますが、それもどうでしょうか。素直にその通りだ、とも言い切れないものがあります。会社のPLBSを見せて会社の財務諸表に関心をもってもらうとすると、駐在員に関係する経費の情報の取り扱い方の問題にぶちあたります。情報を公表して、会社の販売管理費、対売上比率にも目を向けてもらいたい一方、向けてもらってはいけない経費情報もその費用の中には含まれている。さてどうしたものか・・・、どんなに説明しても一向に基礎的な会計知識が身についてゆかない姿、しかし、とあるときに「販売管理費の具体的な内訳を教えてください。一体、Otherで集約されている経費の中には一体何が含まれているのですか?」なんて言われたらどう説明すべきか…。情報を公開すればするほど、むしろ自らの首を絞めることもある、という錯覚に陥ってきます。知らないほうが幸せであることも実際あるのは確かなようです。この狭間で苦しむことがあります。もちろん、言わずともロシア人スタッフも日本人とロシア人とでは待遇も異なる、というのは容易に理解している点ではありますが。
どんなに隠していてもどこからともなくいつの間にかロシア人スタッフに情報が広まっていると言って間違いありません。給与情報、ボーナスの金額もその日のうちにお互いになぜだか伝わっています。日本では考えられません・・・。(新入社員として入社した時の初めての給与明細を同期全員で同じ研修部屋で受け取り、皆で封を開けたとき。そんな時代がありました。人事教育担当者が笑いながら「こんなことできるのは最初だけだ、ありえないなぁ」と言っていたのを思い出します)逆に言えば、伝わってほしいことを意図的にスタッフに話して社内に広めることもテクニックです。
最良の独裁者 > 民主主義
ロシアでは、欧米諸国ほどに民主主義に対する支持が高くない、と聞いたことがあります。実際に今回インターネットでいくつかリソースを探してみたところ、以下の記事に出会いました。著者がロシア人に行ったアンケート結果から導き出された回答のまとめによれば、ロシア人は“imperfect democrats”である、と。個人の自由を重んじるが、民主主義の特質については疑問を持っている。とりわけ国の公的機関について信用していない。政府関係者、行政機関の役人については低い信頼レベルである、と。アンケートせずとも納得です。
民主主義こそが素晴らしい、皆の意見を聞いて多数決の意思を尊重する、という点については、会社のマネジメントを経験している上では諸手を挙げて賛成できず。むしろ誤った方向に向かってしまう危険性を大いにはらんでいます。一般市民のことも深く理解したうえであるべき、正しい決断を下すことができる独裁者。こんな方は滅多にいないでしょうし、これも危険がありますが、これこそが理想なのだろうな、と感じるところです。
https://www.jstor.org/stable/2697274?read-now=1&seq=1#page_scan_tab_contents