人の数だけある物語を乗せて走るシベリア鉄道 / The Trans-Siberian Railway runs with every own life story of passengers

日頃、定期的にロシアや旧ソ連にまつわるニュースをチェックするのに欠かせない、お気に入りのニュースサイト、Настоящее время(英語:Current time)。その別チャンネルでドキュメンタリー動画を流しているНастоящее время.Док。ここでまた一つ素晴らしいシベリア鉄道に関する動画を見つけてしまいました。ウラジオストクを出発してモスクワまでの7日間の旅のドキュメンタリー。そこに居合わせた人々が語るそれぞれの人生の話を伝えています。

この動画の一番頭にあるコメントに全く同感です。「どれだけの多くの人に…その一人一人に自分の物語があるのだろう、想像もできない。 これは素晴らしい! すべての人が幸せでありますように。」

Получается правда что жизнь только в столице?(良い生活ができるのは首都(モスクワ)だけというのは本当?)というと問いかける男性。とても深い質問だなぁと。モスクワで働いている時、地方から出てきて勤務していた若い女の子が退職してゆきました。「これ以上モスクワで生活は出来ない、地元に帰りたい…。」と言って。金銭的に生活が厳しかったのか、モスクワでの生活リズムや人に疲れてしまったのかは分かりませんが、当時、彼女の言葉からは後者のように感じ取りました。このドキュメンタリーに出てくる車両で働く若い女の子は、初めての首都モスクワを訪れることについて「気に入る人もいればそうでない人もいる。私は全く好きになれない」と。別の女の子は、「今の時代、ほとんどの人は飛行機を使う中、まさか自分の休暇を7日間列車でモスクワへ向かうとは考えもしなかった。純粋に(モスクワの)赤の広場を見てみたい。とても興味がある。」良い生活とは?幸せとは?…答えはそれぞれの人によって異なります。ライフステージも変われば自分自身の中での定義も変わってきます。モスクワを見た後の彼女たちの人生はこれからどのように動いてゆくのでしょうか?

ウラジオストクよりも東に位置する日本からモスクワへ行くにしても飛行機であっという間の約10時間。そんな中、7日間かけてモスクワへ向かうというのは、飛行機が苦手な人、航空券が高いので少しでも安く移動したい人(ウラジオストクーモスクワ間の列車チケットの現時点での値段を調べてみたところ、一番安いものでは約10千RUB(今のレート換算で約15千円)となっていました。)国の福利厚生制度の一環で無料で座席を提供される軍人や鉄道関係の従業員、そして列車ならではの旅の醍醐味を満喫したい人といったところでしょうか。「自分の家族は今日、モスクワに飛行機で到着している。家族は飛行機が好きだけど俺は列車の旅が好きなんだ。美しい自分の国をみることができて、多くの人たちとの交流を楽しめるから」

列車の旅となると、自分の空間というものは無くなります。トイレ、シャワーは共同、食事は持ち込んだものや途中で止まる駅で食事を販売する人たちや、駅のキヨスクで調達したり。周りの人たちと打ち解ければ夜は宴会に。静かに眠りたい時でもどこか別のところでは騒がしい所も。といってもロシア人=全員がよくしゃべるわけではなく、この動画に出てくるのは快く応じてくれる人付き合いの良い人たちだろうと思います。それでも、相手の懐に入ってくるまでの時間、距離感は日本よりもずっと短いもので、大概話題に挙がることの中には「給料はいくらだ?日本の年金はいくらか?お前の名前にはどんな意味があるんだ?日本人、中国人、韓国人はどうやって見分けるんだ?日本製品はどれも最高だ!」こんな話で盛り上がることが多かった気がします。昔も今もJapanブランドはまだ高いものがあります。この点では、ロシア人との会話では、日本を売りにして現地の方々と親しくなるチャンスです。最近では私も全くついてゆけない日本のアニメをロシアの友人が知っていて逆に教えてもらうことも…。

飛行機では各自がイヤフォンをして映画を見たり眠ったり本を読んだり。合間に食事がありうとうとしていたら気が付くと「この飛行機は間もなく目的地のモスクワに到着します。必要な方は今のうちにトイレを済ませておき、席にお座りください。」とアナウンス。一方の列車の旅は、乗っては去ってゆく人々との出会いと別れ。そこで聞ける話から”本当の”ロシア、多くの一般のロシア人の生活が垣間見えるなぁ、とつくづく思います。

鉄道関係で12年間働いていた男性は、肉体的にも大変な仕事で給与は30千ルーブル(今のレート換算で約46千円)。「辛い仕事だった」と。その隣に座っている女性が「今、仕事のパートナーとぶつかっている。私にとって仕事は1番目でもなく、2番目に大切なことでもない。旅行したり、人と交流したり、精神的にも成長したりしたい。彼はよく”まず仕事、(他の)生活のことはその次だ”というフレーズを口にする。けれども、それがうまく行かないことは分かってる!」駐在員として働いていた頃、就業時間になると「じゃあ、また明日!」といってササっと帰ってゆくスタッフ。当時の私が、この動画の女性が不満をもらしている男性と重なってきました。あの経験があって今の自分がいます。仕事も重要ですし、仕事も充実していますが、仕事を人生の第一、と断言してしまうとすると、それは危険ではないでしょうか。

1年半前に父親が亡くなり、間もなく40歳を迎えるという女性は「(父親の死を経て)生活を一変させた。今現在を生きないといけない。なぜ明日に延ばさないといけないの?明日は来ないかもしれないんだから。」と断言。長いこと鉄道での旅をしていなかったのでシベリア西部にある都市チュメニに旅行することにしたようです。

ノヴォロシースクへ移動することにしたという夫婦は、「子供たちが成長して巣立っていった。それでとある日、朝起きて考えた、全て投げ捨ててしまおう、全て売り払って後にしてきた。どうして一つの場所に留まっている必要がある?(ロシアの)土地は広大だし、子供は育っていった、どうして自分たちは前に進まない?神様が人間に土地を与えてくれた、ほら、全部の土地は人間のもの、と。一つの場所に留まっていてどうする?菜園を持ち、アパートを保有し…。それがどうした、(列車の窓から)幾つもの村落を見てきたけれど、そこに住んでいる彼らは何か(新しいものを)見ているか?何も見ていない、まだ人生があるのだから(違う土地に行って人生前に進もう)」自分自身を鼓舞するための言葉でもあるように感じられますが、幾つになっても新たなことに挑戦し続けようというこの精神にはただただ勇気を奮い起されます。過去に築いてきたものを守る気持ちではなく、常に新しいものにチャレンジし続けられる精神でいたいものです。

こんな一コマだけでも、あらゆる人の物語を乗せて走るシベリア鉄道の魅力が伝わるのではないでしょうか?言葉は分からないとしても同じ人間。その考えていることは私たちと大きく変わらないようです。(旧ソ連圏とロシア間のように国境をまたぐ移動も決して珍しいことではないことを考えると、行動するときの移動の規模は日本とはけた違いですごい…)この動画を見ていて私自身、ずっと昔の学生時代に同じように旅をしたウラジオストクーモスクワ間の往復二週間の旅を再び振り返る機会となりました。あの時に出会った家族、夫婦、おばあちゃん、今頃みんな幸せに生活しているのだろうか…そんなことを想像しながら当時の写真を取り出してきて眺めていました。

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ロシアのモスクワにある日系企業の管理部門にて長く勤務した後、現在は日本で働く会社員です。モスクワでロシア人と一緒に激動の日々を過ごした中で当時悩み、もがいていた管理業務の情報、体験談を少しでも多くの方々と共有したい、との思いがきっかけとなりブログを始めました。今はロシア、ウクライナの友人たちと連絡を取りながらロシア語の勉強を続け、ただただ平和な世界が来ることを願う日々です。

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