サーシャ・スカチレンコ氏の”あまりにも奇妙で滑稽な”事件を見て思うこと / Thoughts on the “so bizarre and ludicrous” case of Sasha Skochilenko

つい最近日本のニュースでも取り上げられていましたが、ロシアの芸術家サーシャ・スカチレンコ氏がスーパーマーケットの値札を反戦メッセージに取り替えて、”フェイクニュース”を広めた罪で禁固7年の刑を宣告されました。逮捕された2022年4月11日以降の彼女の身に起こったことをまとめたドキュメンタリーがあります。(制作:https://www.currenttime.tv/)

私自身は、日本でもロシアでも実際の裁判所で公判を体験したことがないので、実際の雰囲気を自分の言葉で語ることができません。このような若い女性が戦争反対に声をあげたことで緊迫した状況が伝わってくる動画はきっと我々の知らないロシアの一部を見て取れる貴重なものだと思います。

楽しく過ごすレストランでの美味しい料理を堪能したり、高級なホテルのバーでお酒を楽しみながらの談笑、そんな駐在生活で楽しむ日々を過ごすその隣り合わせで繰り広げられているこんなドラマが。毎日のあっという間に過ぎ行く、忙しくも楽しくもあったロシアでの駐在生活も、実はプーチン大統領の手のひらの上で遊ばれているのでは…そんなことを冗談半分に思ったこともありますが中らずと雖も遠からずなのかもしれません。

2023年4月13日付で掲載されていた彼女のインタビュー記事を読んでいると、人生にとって何が本当に大切なことなのかを、不自由の無い自由を享受しているであろう私たちの多くにとって考えさせられる内容が述べられていました。

«Есть ощущение, что развязка будет неожиданной». Художница Саша Скочиленко дала «Вот Так» интервью из СИЗО, в котором сидит уже год

私は人生の中で正しい道を選択していたことも分かりました。それは、親しい関係づくりに多くのことに力を注いできたことです。自分の人生を創作活動に捧げ、多くの場合それを無償で行い、生活するのも大変で何とかやり繰りしてきたけれど、そのすべては人々からかつてないほどの助けと愛の形で自分に返ってきた。

(拘留される前までの)外での生活では、私は過去数年間…自分に何が起こっているのかを考える時間がまったくありませんでした。ここでは自分の人生を考え直すための時間がたくさんありました。たとえば、有名なミュージシャンやアーティストになることをいつも夢見ていたけれど、いざ有名になってみると、これは人生の中で全く重要なことではなかったことが分かりました。それは大概わずかな成果でしかない終わりの無い道で、どこにも通じていません。 世界のすべての名誉は、自由、愛、親しい友情に取って代わることはできません。

…希望のない真っ暗な憂うつの中に生きている人々の中には、人生の価値を — 自分のものも他人のものも — もはや何も感じず、もはや理解していない人もいる。何のために横の繋がりを築かなければならないのか理解できないし、どうすれば横の繋がりを築くこともできない。これが多くの問題の根源であるように私には思える。

インタビュー記事より翻訳

法廷での彼女の最終意見陳述の全文が以下のサイトに掲載されています。

https://zona.media/article/2023/11/16/o-da-zhizn

https://en.zona.media/article/2023/11/16/yes-life

最近、書棚にあった「収容所群島」(著:ソルジェニーツィン)の2巻まで読み返したところですが、時代は変われど今のロシアで行われている裁判は — スカチレンコ氏が”такое странное и смешное(あまりにも奇妙で滑稽な)”と表現した — この作品に描かれているソ連時代のそれと大きく変わっていないのではないでしょうか。少なくとも昔と違うのは、この彼女の最終意見陳述にあるように、”彼女が逮捕されていなかったら、彼女したことは(彼女を通報した)一人のおばあさん、レジ係とスーパーマーケットの警備員のみが知るところであったところが、(メディアを通して)ロシア国内と全世界が知ることになった”、ということかもしれません。もし興味ある方がいらっしゃれば、是非ともこの「収容所群島」を手に取ってみることをお勧めしたいです。