ここ最近、過去にファイルしていたロシア記事を整理していて見つけた興味深い記事の紹介です。情報元は2020年1月17日発行のРоссйская газета(直訳:ロシア新聞)に掲載されていた記事。2020年1月15日にプーチン大統領が行った年次教書演説に関するもので、これはすでに4年前のもの。今更…という声が聞こえてきそうですが、昨今の日本で議論されていることと似通った点を感じたのでした。なお、できる限り調べたものの一部誤訳の可能性もある点をご了承いただければ幸いです。
なお、大統領の年次教書演説の概要はJETROのサイトに分かりやすくまとめられていましたのでそちらをご参照することをお勧めいたします。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/01/0738c2bc42877464.html
この年のプーチン大統領の演説での重点課題の一つとして、国民の実質所得の停滞に向けた解決策が挙げられていました。2020年1月1日から、一人当たりの所得が最低生活費を下回る世帯に対して、3歳から7歳の児童に毎月給付金を支払うことを提案。これには、ロシアという国を持続させるためにも人口の維持を支える政策が重要であることが演説の内容からも伺えます。
Послание Путина Федеральному собранию. Главное
«Судьба России и ее историческая перспектива зависят от того, сколько нас будет. Сегодня нас почти 147 млн человек. Но мы вступили в очень сложный демографический период — семьи сейчас создает малочисленное население девяностых годов. И показатель снова падает. Суммарный коэффициент рождаемости (количество детей, рожденных одной женщиной. — РБК) составил, по предварительной оценке, 1,5. Для нашей страны этого мало. Для сравнения: столько же было в 1943 году, то есть во время Великой Отечественной войны. Существующие сейчас негативные прогнозы не могут нас не настораживать. Наша обязанность — к середине наступающего десятилетия обеспечить устойчивый рост населения».
「ロシアの運命とその歴史的展望は、私たちの人口の数がどうなるかにかかっている。現在、私たちの人口はおよそ1億4700万人近くいる。しかし、私たちは人口統計上非常に困難な時代に突入した。家庭は今、90年代の少ない人口を生み出している。そして、その指標は再び低下している。合計特殊出生率(1人の女性から生まれる子供の数、RBC)は、事前の推計では1.5であった。これはわが国にとって十分ではない。比較すると、1943年つまり大祖国戦争中も同じ水準であった。今存在しているネガティブな予測を私たちは憂慮せざるを得ない。我々がすべきことは今後10年の半ばまでに持続可能な人口増加を確保することである。」
ロシア大統領直轄の経済評議会メンバーである経済専門家グループ責任者、エフセイ・グルヴィッチ氏によれば「貧困人口のかなりの部分が数人の子供を持つシングルマザーであり、手当を支払うことは出生率を上向きに促す可能性がある。」という説明からも給付金の支払いがロシアという国家存続に繋がる重要な施策であることが理解できます。
現在の任期の初めに、プーチン大統領は2024年までに貧困レベルを半減するという目標を設定したものの、実際にその実現は当初予定のようにはいっていないようです。
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演説の前日、国会議員のグループは、収入が最低賃金の2分の1未満の個人に対して所得税を免除する提案を提案。この案について、会計検査院のアレクセイ・クドリン長官(当時)は、個人所得税の支払いを取り消す代わりに補助金の支給により貧困層の人々をサポートすることを提案した。「とても低い給与に対する課税を低くすることは貧しい人々にとって直接に価値を感じられないものですが(もちろん、いかなる課税の削減は誰からも歓迎されますが)、この場合、貧困との闘いについて話しているのであれば、私は家族の一人当たりの所得に基づく補助金と、それに基づく適切な補助金の配分がより効果的であると考えています。」
⇒ 今年、日本でも低所得世帯への給付金が支給されますが、所得税の減税か補助金の支払いか効果的な方法は何か、という点についての議論やどの国でも同じように議論が交わされているようです。
Rosstat(ロシア政府の統計機関)によると、2019年には賃金の最低と最高の差が13倍に縮小した。 2013 年にはこの比率は 15.8 倍、2009 年には 14.7 倍でした。労働に対する報酬の不平等の縮小は、最低賃金、公務員の給与の引き上げ、および一連の産業の発展の結果です。専門家は賃金の格差が更に縮小することを予測している、とのこと。
公式統計によると、現在、賃金格差が最も高いのは養殖業(28.8倍)、科学活動(19.3倍)、IT(17.6倍)で、最も低いのは自動車生産(7.1倍)と繊維製造業(7.2倍)である。モスクワでは、最も賃金の高い労働者の10パーセントが33万7,800ルーブルを受け取り、最も賃金の低い労働者の10パーセントが2万6,000ルーブル。その差は16.4倍である。最低賃金(11.2千ルーブル)を労働者の1.2%が受け取り、最大給与(50万ルーブル超)は0.1%。最大の割合の従業員は33.9千〜4万ルーブルの給与を受け取ります (9.7パーセント)、5万〜6万ルーブル(8%) および 60千~75千 ルーブル(7.4パーセント)と続きます。
VTsIOM(”全ロシア世論調査センター”。ロシアで最も古く、最もよく知られた世論調査会社) によると、現在、国民の 14 パーセントが現在の経済状況に満足しているという。
回答者の半数以上 (61%) が「平均的」、4 分の 1 が「悪い」と評価しています。ロシア人の回答者のうち52%が自国の経済状況を「平均的」、29%が「非常に悪い」と考えており、14%が状況は改善したとのこと。
「個々人の経済状況に関しては、国民の 78 パーセントが自分自身は貧困層の人間だとは思っていない、という結果が出ている。これを「主観的貧困」というのだ。」
と締めくくられていました。
⇒ これは皮肉のこもった表現に思えてならず苦笑いしてしまいますが…”主観的貧困”とは、自分自身が貧困に陥っていて困っている、という主観的な意見に基づく貧困だと理解しています。それを、「私は貧しい人間ではない。」という主観的”非”貧困の答えをもってそれを主観的貧困であると断言し、それが国民の78%にも上る…これをどのように捉えてよいのかは分かりません。富が上位の一握りの人々に偏り、大半の人々は苦しい生活を送っているのだとすれば、必ずしもこの記事の作者の意図するところは外れていないのかもしれません。
⇒ 言い換えれば、自分の現在の最低レベルであったとしてもあるもので満足している、ロシア人の素晴らしい特質なのかもしれません。明らかに西側諸国、日本にはモノが溢れています。モノを手に入れてあまり長続きすることのない幸福感を味わうのか、モノがなくても今あるものから幸福感を味わうことができるのか?人の幸福感はそれぞれ異なるため優劣をつけることはできませんが、金曜日ともなればモスクワ郊外に向かう車列の渋滞や電車の人々。ダーチャで週末を家族やペットとゆっくり過ごし、家庭菜園や家の手入れを楽しむ。そして再び元気を得て月曜からの仕事に戻る…そんな素朴な時間の過ごし方の中に、これまでとは違う幸福感の在り方も知ることができたモスクワでの生活でした。
参考資料:貧困から社会的排除へ 指標の開発と現状