[ロシア法律]裁判所を訪問する人たちの裁判所における規則 / [Russian law] Court rules for people visiting the court

今回は、最近のロシア法律のアップデートについてのニュースをチェックしていて、ロシアにはこんな規則があるのか…という興味から調べてみた内容を書いたものです。以下のリンク先の記事をベースにしています。

Совет судей утвердил Типовые правила пребывания посетителей в судах с учетом замечаний Минюста (advgazeta.ru)

裁判官評議会は法務省の意見を考慮し、「裁判所を訪問する人たちの裁判所における規則」を承認した、という。裁判所にやってくる人たちの服装を含めて、裁判所での然るべき振る舞いを定めた規則が制定され、この中には総則、裁判所への訪問者の入場の組織、セキュリティ対策、裁判所を訪れる人の責任、裁判所への立ち入りを禁止する物品のリスト例の4つのセクションから成り立っているようです。

果たして日本の裁判所での振る舞いを定めた規定はというと…インターネットで裁判所のウェブサイトを検索してみたものの、以下のように注意を促すものが存在するのみかな、と思われます。きっと今のところはこのレベルのガイダンスで十分なのかもしれません。

見学・傍聴案内 | 裁判所 (courts.go.jp)

ふむ、ロシアでは何でこんな規則が制定されたのだろう?規則というのは何らかの理由があって整備されてゆく、というのが一般的と思うのですが、この規則もそのようです。詳細は下記のリンク先にある記事に経緯が説明されていました。

https://www.advgazeta.ru/diskussii/ugolovnoe-delo-v-otnoshenii-lidii-golodovich/

2018年7月、サンクトペテルブルクのネフスキー地方裁判所において、弁護士のリディア・ゴロドヴィッチ氏が民事事件の証人を入廷させようとしたものの拒否されました。この証人は半ズボンをはいていて、「裁判所における行動規準」によるとその服装が相応しくないことからでした。この弁護士は証人を中に入れる許可を得るため、弁護士は裁判所議長の応接室に押し掛け、そこで秘書が非常ボタンを押したために弁護士は手錠をかけられ、警察署に連行されたということです。結果として、権威を代表する人に対する暴行の罪、あるいは暴行をするという脅しに対する刑事事件の罪で起訴されて有罪となり、20万ルーブルの罰金支払いを命じられる、という結果になっています。

この2018年時点では、裁判所での服装に関しては規則として制定されていなかったため、この事件を経て今回の規則策定の検討が始まったことは確かのようです。そして、この規則は裁判官と裁判所職員の身辺の安全を向上させるなど、司法に関する体制と安全を確保するために作成されました。

この規則の中では、裁判所庁舎への入館を拒否する根拠が明確に説明されていて、特に身だしなみが公衆衛生の要件を満たしていない人、スポーツやビーチ用の服や靴を履いている人、膝より上のショートパンツを履いている人、人間の尊厳を傷つけるような服や靴を履いている人、社会や裁判所に対する明らかな敬意の欠如を示すような服や靴を履いている人、本人を特定できないような服装をしている人がその対象となっています。

広大なロシアでは地域によって気候も異なることから一律にルール化することは難しい要素もあるのかもしれません。(例えば、暑い夏の期間、多くの市民が夏の普段着(短パンや薄手のTシャツなど)で裁判所に来るロシア南部地方)

記事の中には興味深いコメントがありました。

”弁護士のマルティン・ザルバビャン氏は、法廷における行動規則の問題に対する統一的なアプローチを開発することは、非常に重要かつ意義深い取り組みであると指摘しています。「裁判所訪問者の適切な行動について話すのであれば、そのようなルールは普遍的かつ統一的であるべきです。統一されたルールは、裁判所の公の秩序を乱すことを防ぐだけでなく、司法が行われる場所での振る舞いに関する透明性は、市民の権利を保障する一種の保証となるからである。劇場がハンガーから始まるのであれば、司法制度は裁判所組織と訴訟手続き遂行のためのルール確立から始まるのです」と弁護士は言う。”

ハンガーから始まる - ロシアでの劇場に入れば、必ずГардероб(読み:ガルデェローブ、意味:クローク)があります。冬になると顕著ですが、来場者は必ずそこで上着を預かってもらいます。係員は預かった上着をハンガーに(フックにかけることも)かけて番号のついた預かり札を渡して…と、この光景が繰り返されています。それは徹底されたルール。それと同じように司法制度も普遍的なルールをそろえて始めるべきである、と。

余談ですが、ロシアで生活してみて良い印象を持ったことの一つに上着の取り扱いがありました。カジュアルなカフェやレストランは別ですが、どのオフィスでも一般的なレストランでも、必ず入口のすぐそばには上着をかけるコーナーがありました。ロシア人の友人の家にお邪魔した時も玄関を入ったらすぐの場所に必ず上着を置く場所がある。靴を脱いで部屋の中に入るのも然り、外と中とで区別していることは衛生的にも、マナーとしてもきっと良いことなのではなかろうか、と。また、ずっと以前にアメリカに住むウクライナ出身の方のところに遊び出かけたときに印象的だったのは、「アメリカの友人を家に招く時には、(靴を脱ぐことをお願いしていても)どうしてもそのルールを理解せずに家の中に土足のまま入ってきてしまう人がいる…。その場で言えない時には仕方がないので我慢して、後で部屋の中を掃除するしかないです…。」ということでした。文化が異なる背景を持つ人たちが共に生活することにはこんなところにも難しさが生じるのだな、という気づきを得た経験でした。