“本物の”パンが日本にはない? / There is no “real” bread in Japan?

ロシアの生活と比較して異なるのは、パンそのものの味を味わえるパンがないこと。どのお店にいっても大抵のパンにはミルク、マーガリンなどが入っていて甘い。そんな印象です。そういえば、初めて日本に来たロシアの友人も「どこで買ってもパンが甘い」と言っていたことを思い出します。ロシアにいる時には好んで食べていた黒パンが懐かしい…。

私はパンに詳しいわけでもなく、強いこだわりがあるわけでもないのですが、あえて言えば食パンは何も甘いものがはいっていないものが好きです。日本の食文化のレベルの高さからすると、パンもきっとこだわりを持って作るお店が多く、そのどれもが美味しいに違いないと思います。実際に高級食パンのブームが話題になったこともありました。確かに美味しいのですが、どうしてもこうも甘いのだろう?と。今朝も近所で話題のパン屋さんへ出かけて中に入ってみると、ありとあらゆる菓子パンが並んでいました。

そもそも、”本物の”パンなんて存在しないのかもしれません。日本のお寿司も海外に行けば違うネタがのっていて、それはそれで美味しいですし、日本の本場のお寿司屋さんで提供されるものが本物か、というと必ずしもそうではないのかも?パンも日本に入ってきて、日本の食文化の中で日本の人々が好む形に合わせて発展を遂げてきたということなんだろうと。

時々利用しているパン屋に出かけたときのことです。ちょうどお客さんも少なく、前から気になっていたことを率直に尋ねてみました。「ライ麦パンっていうんでしょうか、自分は黒パンが好きなんですが、そういったパンをお店に置いたりしないんでしょうか?仕事で外国に行っていたことがあるんですが、帰国して思うのは、どのパン屋さんのパンも甘くて素朴なパンの味がするものがないんですよね…。どれも甘くて…。お店にあったら絶対に買うんですけどね。」

そうすると、思ってもみなかった反応があり、滔々と胸の内を語ってくれました。決して長い時間の会話ではありませんでしたが、パンに対する思いやビジネスとしてお店を経営すること難しさも言葉から伝わってきました。

「パンを作る側としては作りたいものがあるの。でも、多くのお客さんが菓子パンを好むこと。できるだけパンも柔らかくて甘いものを好むこと、そしてパンには具がたくさん入っているように、という要望があって。お客さん(私のこと)が言うようなパンも以前は作っていたことがあるのだけど、買ってくれるのはほんの一部のお客さんだけで難しい。結局今店頭にあるものを作るしかない。本当は作りたいんだけどね。こちらも商売でやっている以上お客さんが求めるものを作っていかないと…。」

という内容を繰り返し語ってくれました。

もうずっと昔のこと、学生の頃にはロシアへ語学留学にでかけて、当時は(味を覚えていませんがきっと美味しくはなかった)黒パンを買って、これがロシアだ、なんて思っていましたが、実際のところ、今のモスクワ(私がいた数年前のモスクワのパン屋)で販売されている黒パンはむしろ高価でとても美味しいものでした。

冒頭に張り付けたYoutubeの動画は、たまたま見つけたロシア生活を紹介する動画のパン屋さん編。パン屋と言ってもたくさんの種類がありますが、この動画に写っているパンの種類はモスクワでも必ずと言っていいほど目にするものたちばかり。ロシアのパン文化は、国が南はカフカス地方、東は中央アジアなど異なる文化と接しており、それだけ多様な種類のパンと出会えるのがまた独特なのかもしれません。動画にも出てくるハチャプリ(ジョージア発祥のパン)、ラバッシュ(アルメニア発祥の薄い生地のもの。これをパンというのか分かりませんがアルメニア人のお宅に行ってご馳走になる時には大体これがテーブルにあったように覚えています)。中央アジアの方面でいえばлепешка(単数形:リピョーシュカ)。当時は、職場近くにある市場によく買いにでかけていました。なかなか上手く発音できず、お店の若者によくからかわれていました。通ううちに完璧に発音できるようになり「おっ、お前ちゃんと言えるようになったな」と褒められたり。